造形の高みに、低く屈んで構え、そして深く彫りつつ、向かうために。
現代における「彫刻」の意味を問い直す、展観をお届けしたい。 「彫刻」。それは、かつて世紀末ドイツの詩人、リルケが喝破したように、「ギリシャ人は、自らの肉体を、彼らが初めて見る風景として発見した」。かの天才ミケランジェロは、「石に耳を傾けて、その中に元から在ったものを、私は彫り出すだけだ」と言った。(註) 最も偉大な彫刻とは「彫刻とは何か?」という、その原義、本来の意味を私ども、見る者に突きつける仕事である。 一方、私どもは多く、西洋の近代=この、「自我」を発見したと誤解するユニークな誤謬ごびゅう の時代に、毒されても来た。曖昧で、ある意味いい加減な、造形の歴史(だけで無く、生活もまた社会も、日本においては同断である)をになって来たのである。 戸田裕介は、勇猛・ユニークで、特異な浪漫ろまん 主義的な物語る彫刻によって、その「日本の近代以来の、いい加減な、誤謬の造形観」をひっくり返す、果敢で危険な試みに挑んで来た。それは、戦後アメリカ流の「造形とは見えるものだけであって、それ以外を示唆・指示しない」という、一種如何にも表面上は正鵠せいこく に思えるような結論に達した、現代彫刻の安易なる「開き直り」への意義申し立てでもあった。 そして冨井大裕もまた、西欧20世紀が、それなりに悩みながら辿たど って来た「コンセプト=思想か、それとも物体・物質・オブジェか?いや、もしかしてイメージか?」という、三律背反?の追いかけっ子のような愚鈍ぐどん なジレンマを、叡智をもって巧みに、肉体をもって飄逸ひょういつ に、反転させる妙技を、披露して来た。 『いきの構造』の二人。リリシズム=詩情、という名の戦意。「いき」とは、下劣げれつ な哲学的認識では無い。軽やかでお洒落な、しかも真摯で奇襲的な、捨て身の行為である。 この共に、最も日本的な二つの、「いき=粋=意気」の構造でもって、西洋近代の似非造形意識に毒されている、現代日本の彫刻界を糺ただ す、展観をお届けする。 ─ 註:記憶で書いているが、『現代世界文学全集06』(新潮社、大山定一訳)、『神さまの話』(新潮文庫、谷友幸訳)から引いた。『いきの構造』とは、美大生必読の、昭和初期の伝統論争時代の名著、九鬼周造の同著(岩波文庫)。自我の発見の誤謬は、森有正から。
出品作品
戸田裕介 TODA Yusuke 1962年、広島県生まれ。1990年、武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻彫刻コース修了。1995-96年、日航財団(現JAL財団)「『空の日』芸術賞」(1994年)、同財団海外派遣芸術家として渡欧(イタリア、フィレンツェ・イギリス、ロンドン)。1996年、Royal College of Art, Sculpture School, Post Experience Programme(イギリス)。2000年、国際交流基金 芸術家海外派遣フェローシップ(ドイツ)。同年、武蔵野美術大学造形学部共通彫塑研究室着任、現在同研究室教授。「現代日本彫刻展(UBEビエンナーレ)」、「神戸須磨離宮公園現代彫刻展」などの野外彫刻展を筆頭に、国内外のさまざまな彫刻コンクールで受賞を重ねる。国内をはじめ、アメリカ、インド、ロシアなど海外6か国7都市で滞在制作、彫刻を設置。
戸田裕介《Bonfire/Jの夢》2016年、 鉄・FRP・鉛・紙(太平洋中心配置世界地図/アメリカ合衆国国防総省測量部発行)・接着剤・ウレタン塗料、 420.0×350.0×240.0cm、 撮影:山本 糾、「生への言祝ぎ」展(大分県立美術館)での展示
冨井大裕 TOMII Motohiro 1973年、新潟県生まれ。1999年、武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻彫刻コース修了。2015-2016年、文化庁新進芸術家海外研修制度(アメリカ、ニューヨーク)。2018年、武蔵野美術大学造形学部彫刻学科着任、現在同学科教授。2011年、「MOTアニュアル2011 Nearest Faraway|世界の深さのはかり方」東京都現代美術館、「ヨコハマトリエンナーレ2011─OUR MAGIC HOUR 世界はどこまで知ることができるか?─」横浜美術館ほかをはじめ、数々の展覧会に参加。本年、「PRIZE for LEADING CHARACTER 2024 DSF CULTIVATION AWARD」を受賞。 彫刻と彫刻以外のものの「間(あわい)」に目を向けるグループ「SCREWDRIVER」としての活動、実験スペース「壁ぎわ」と「はしっこ」の世話人をはじめ、アーティスト主体による展示・イベント等も精力的に行う。
冨井大裕《トルソ、或いはチャーハン #2》2022年、 ゴミ箱の蓋(プラスチック・鉄)・針金・ビス、38.0×120.0×36.0㎝、 撮影:柳場大 ©︎Motohiro Tomii, Courtesy of Yumiko Chiba Associates
武蔵野美術⼤学美術館は、2011年のリニューアルオープンから13年余りを経て、2024年5⽉から2025年夏頃までの間、空調改修⼯事のため、一部の展覧会開催期間を除いて休館する予定です。 休館中、美術館・図書館・民俗資料室の3セクションによる5本の展覧会を、学生・教職員限定で、図書館展⽰室を中心に開催いたします。
会期・・・2024年11月4日(月)-12月7日(土)
時間・・・10:00-17:00
休館日・・・日曜日
入館料・・・無料(学生・教職員限定)
会場・・・武蔵野美術大学 図書館展示室、図書館大階段ほか
主催・・・武蔵野美術大学 美術館・図書館
Vol.4 彫刻の威力 関連イベント 「天上天下けむりの人間機関車、「大駱駝艦」がゆく/現代彫刻に異議アウトレージ あり」
白塗り前衛舞踏のパイオニアにして巨匠、麿赤兒率いる「大駱駝艦」。その未来を背負うのが、我らがムサビ油絵出身の、怪物村松卓矢。「彫刻の威力」展開き舞台に、畢生の大作、人間機関車けむり踊りを大披露。これぞ現代彫刻の是非を問う、人間彫刻時代の未来を予言するもの也。引き続き、パフォーマンスの延長で、作家彫刻家4人によるトーク・バトル、殴り合い?「現代彫刻に異議あり」を開催。乞うご期待の上、ご参集願いたし。
会期・・・2024年11月9日(土) 時間・・・踊り 16:40–17:10 ※16:10開場 セットチェンジ(および館長による企画紹介)17:10–17:25 トーク 17:25–18:50 入館料・・・入場無料 会場・・・美術館アトリウム1
出演者・・・踊り:大駱駝艦[村松卓矢、坂詰健太、荒井啓汰、谷口舞、谷口美咲子、石井エリカ](振付・演出:村 松卓矢) トーク:戸田裕介(本学共通彫塑研究室教授)、冨井大裕(本学彫刻学科研究室教授)、細井えみか(本学共通彫塑研究室助教)、石川夏帆(彫刻学科研究室助教)、森啓輔(司会、千葉市美術館学芸員)
参加方法・・予約不要、会場へ直接お越しください。 ※イベントはどなたでもご参加いただけます。イベント当日のみ図書館で開催されている「彫刻の威力──戸田裕介、冨井大裕 二人展」をご覧いただけます。
主催・・・武蔵野美術大学 美術館・図書館 共催・・・武蔵野美術大学 造形学部 教養文化・学芸員課程研究室